一番手 レッド・シグナル

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「……ん、多分だけどそれっぽい反応見つけた。丘の頂上あたりに潜んでる」 ウールフォルクが小さな細い指で遠方を指し示すが、現時刻は既に夜中を回っている。魔法で周囲を照らせる程度の小さな光源なら造り出しているが、生憎とそんな遠くまでは見通せずに漠然と夜の闇がひろがっているだけで問題の頂を視界にとらえる事は出来ない。 だが、頂上の風景はすぐに脳裏に浮かび上がった。あの丘の頂上に樹齢四百年の巨大な…それも特別な欅があるのは有名だからだ。 僕自身、あそこには私用で何度となく足を運び、花を添えた。 「魔獣がまだ完全に覚醒していないのは幸運だな。時間も時間で人もいない。逃さず、狩るぞ」 彼が隊長のオーゼン・オリオン。 強い意思と覚悟を秘めたその眼光は凛々しい程に鋭く、金髪も堅苦しいまでにぴっしりと丁寧に全て後ろへ流し、隊の制服である黒い胴着は着崩さずにキッチリと全部のボタンをとめている。 ちなみに、この胴着は諸外国の技術や素材を取り入れた最新式で生地には細かい網目の走る耐刃繊維が用いられ、要所には薄い軽い硬いが宣伝文句のミスリルカーボンのパッドが埋め込まれてある。 何故ウチみたいな小さな国にまでこんな装備が出回っているのかと言えば、それは隊長が中央大陸からやって来た文明開化の使者だからに他ならない。 「ま、目覚めさせたら厄介っつーか面倒かもなぁ。さすがにこの数じゃあよ」 実際に見えている訳でもないのだろうが、周囲の暗がりを見渡しながらイングバーがげんなりした様子で愚痴る。 艶のある深い藍色の髪なのに纏まりなく無造作に伸びきっており、見た目からしてだらしなく、目付きは常に人を見下した感がある。未だに自警団としての自覚をもって行動しているかは甚だ疑問だが、不愉快な事に腕は立つ。 彼は隊長が引っ張ってきた元殺し屋で、減刑を条件にこの部隊へと籍を置いていた。 個人的な意見を付け加えるならば、正直僕は不遜で高慢なこいつの性格はあまり好きではないのだが、しかし特出した戦力に乏しい今の僕らでは頼らざるを得ないのが現状でもあった。
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