一番手 レッド・シグナル

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そう言った意味では、アクアとは逆に大人ながらも何ら期待出来ないのが、ブラウンとかいう異国の客人だ。 恐らく染料か何かで染めているのだろう、不自然に明るい茶色の髪、明らかな緊張が見て取れる泳いだ目付き。体格も華奢で運動神経は鈍く、かといって特別魔力に長けている訳でもない。 今も、一番年少であるウールフォルクの背中に隠れて小さくではあるが身体を震えさせてすらいる。武具も魔法も扱えないのでは、戦う事はおろか生き残る事すら危ういだろうに、何故隊長は彼がこの場について来る事を許可したのだ…? 「んで、どーするよ?全員でチンタラ歩いて登ってくのか?」 揶揄する様なイングバーの問い掛けに、隊長はぐるりと皆を見回し、答える。 「いや、俺とイングバーの二人だけで一気に駆け登って本体を叩くのが最良だろうな。あとの五人は、後方で待機だ」 確かに、迅速さを優先すれば僕らは足手まといか。 魔力に秀でていてもウールフォルクやアクアはまだ子供、ネイアドは装備が重い。僕も専門は魔法による医療で体力には自信がないし、聞かずともブラウンも同様だろう。 「可能性として、魔獣が地の利を使うケースも考慮しておかねばなるまい。その場合はアクアを露払いの主力に据えて、ウールフォルクはそっちのサポートに回れ。 ネイアドは…ブラウンを護ってやってくれ──」 「ちょっ…待って!」 隊長の言葉を遮ってウールフォルクが切迫した叫びをあげ、何事かと皆の視線が彼女に集まる。 「なんだか魔獣の様子が変なんだけど…って、こっちに来たぁ!?」 その言葉で各々が反射的に自分のスタイルで身構え、ウールフォルクの見据える方へと向き直り表情を険しくする。 …肌着の下に、じんわりと汗の流れる感触。鼻から漏れる自分の息が重い。 やはり、この緊張感だけは未だに慣れない。 「…きゃあっ!?」 「おい、どうした──」 不意にウールフォルクが悲鳴をあげ、ブラウンが不安そうに彼女の肩を抱き支える。 「なっ──」 突然の状況変化に絶句したのは、何もウールフォルクだけではなかった。 これには正直僕も慄然としたし、隊長だって僅かに表情をしかめている。 ほんの数秒前には、確かに僕らしかこの場には居なかったのに。 今は、無数の骸骨や腐乱死体が僕らの周囲八方をぐるりと取り囲んでいるのだ。
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