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光景だけでも充分気味が悪いのに、鼻を覆いたくなる程の強烈な腐敗臭までもが空気を汚していく。
欅に潜む魔獣がこの土地に眠る者達を魔力で掘り起こしたのだろうが…予想はしていたものの、実際に目の当たりにするとやはりどうにも生理的に気持ちが悪い。
皆も同様らしく、不快感で露骨に表情を歪めていた。
「おい!!」
ブラウンの絶叫で、新たな異変に気付く。
ウールフォルクの姿がない。
たった今まで、彼の目の前に居たのに。
悲痛な眼差しで上空を見上げる彼の目線を追ってみれば──
「ほう。飛べたのか、あいつ?」
イングバーの言葉通り、ウールフォルクは夜空を舞っていた。
確かに、魔法理論上では空を飛ぶ魔法もあるにはある。
だが、あくまで成功事例が幾つかある、といった程度でしかなく、誰でも使えるといった簡単な魔法ではない。当然、いくら魔法に長けているとはいえウールフォルクといえど飛翔の魔法は使えない筈だが…
しかし現に、彼女は空を飛んでいる。
向かっている先は──恐らく、頂上の欅だろう。
これが、何を意味しているのか。
察しがつかない訳ではないが……どうにも、いろんな想いが折れそうになる。
過去にもこういった事例はあったし、寧ろ今の彼女では魔力の器としては酷く不安定で、この様な最悪の展開が起こり得る可能性は充分考えられたのだが…
しかし危険だとは分かっていても、それに対応出来る具体的な警戒策などないのだ。
それでも、魔獣を探す為には彼女の魔法が絶対に必要不可欠なのだから、危険性を承知の上で現場に連れて来なければならない。
一番辛く悔しいのは隊長だろう。そっと覗き見る様に隊長の様子を窺ってみたら、沈痛の面持ちで下唇を強く噛み締めていた…
僕はただ、夜空に消えゆくウールフォルクの姿を呆然と眺める事しか出来ずにいて。
何故だか、ぼんやりと彼女と交わした言葉の数々を思い出していた…
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