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「えっと、初めまして!五代目ウールフォルクを襲名した者です。宜しく!」
確か初めて言葉を交わしたのは、宿舎の廊下ですれ違った時だったか。
綺麗な黒髪を真っ直ぐ腰まで伸ばした、とても可愛らしい、ごくごく普通の女の子。声音は少し甲高いが、この年頃なら充分愛嬌があると思うし、聞けばまだ13才らしい。
歳が離れ過ぎているからか、逆に彼女とは話しやすかった。とても人懐っこい性格をしていたし、明るく、素直で、打ち解けるまでに然程時間はかからなかった。
彼女の方も僕には好感を持ってくれたらしく、宿舎内でもよく声をかけてきてくれたものだ。
「私自身としてはまだ知り合って日も浅いんだけど、ランシッドさんの事は色々と知っちゃってるから、スゴく話しやすいし安心も出来るし…なんかこう変な感じなんだよなぁ…」
僕だって、彼女と初めて会った時は正直かなり複雑な心境に陥った。
それと言うのも、彼女の中に継承されている三代目ウールフォルクのクリスとは無二の親友…或いは、それ以上の間柄だったからだ。まさか、こんな形であいつの記憶と再会するとは。
感慨深さは否めなかったが、しかし奇妙な寂しさも覚えたりで、どうにも不思議な気持ちとしか表し様がなかった。
「もし差し支えがなければ、その……君の中に残っている、あいつの想い出がどんなものなのか、聞かせてもらえない…かな?」
正直、彼女にこの話を切り出した時にはそれはもうかなりの勇気がいった。
恐かったのだ。
あいつは何を見て何を感じ、何を想っていたのか。
知りたくてたまらないと思う反面、やはり仲間への体面が気にかかった部分もあったし、何より強い罪悪感もあった。
当人に直接聞く訳でもない、言うなれば又聞きだ。
だがしかし、あいつと直接言葉をかわす事はもう出来ない。
聞きたい、でも聞くのが恐い。
それに、もし誰かにアイツの気持ちが零れたら。そこから、広まりでもしたら。
知りたい、でも聞けない。
事実、四代目のハインツには勇気が出ずに結局聞けず仕舞いだった。
……だけど。
いつも屈託のない笑顔を浮かべ、春の訪れの様な心地好さと暖かさとを与えてくれる彼女ならば、女々しくも未だに過去の想い出にすがろうとする僕を笑わないんじゃないかと思えて。
自分勝手な期待だとは分かっていた。
それでも彼女は、目尻を穏やかに緩めて柔らかく微笑んでくれたのだ。
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