一番手 レッド・シグナル

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「うん。多分きっと、クリスさんも貴方には伝えて欲しいと思ってる筈だから…」 あいつが目指したもの、僕の支えとなる想い。 ここで過ごした、短くも感じられる長い長い日々の話を。 彼女の口からではあるが、あいつの目線で聞くことが出来て。 年甲斐にもなく、昔を懐かしんで僕は泣いた。 涙脆いのか、或いは感情移入が働いたか。 彼女も、時々うっすら涙を浮かべた。 その話をしてもいいのだが、別にそんな大層なものでもない。 他人に聞かせてみてもきっと取るに足らない只の馬鹿話だと落胆させるだけだろうし。 だけど、僕にとっては不出来なカレーを食べさせられただけでも心に残る大切な想い出で。 うまく表現出来ないが、暖かく穏やかな嬉しさで満ち足りた柔らかい気持ちになって。 僕は笑顔で、沢山涙を零した。 さて。随分遅くなったが丁度良いのでこの辺で自己紹介を挟んでおこうか。 僕の名はランシッド・レイヴン。 新レオグライン王国の王室付で医療班の室長をやっており、国の自警部隊が出動する際には医療担当として付き添っている。 こう説明すればなんだか凄そうな話に聞こえるかもしれないが、そもそもレオグラインは世界の南端にある小さな島国でしかなく、この世界に数多く繁栄している諸外国などに比べれば国土も人口もその一都市にすら劣る。 とどのつまり、この捕物帖ひとつにしても、小さな国の小さな物語でしかないのだ。 とはいえ、そこに生きている僕らにとっては、この国が世界そのものであり、生活なのだ。 脅威には、当然抵抗しなければならない。 それが魔獣であり、自警団なのである。 この世界には七色信仰と魔法文化が広く繁栄しているが、当然地域によって文明の進化模様は異なる。 例えば純粋な魔法理論の最先端を進んでいるのは西部で、東部は魔法に科学を融合させた特殊な進化を遂げているし、土地の魔力が乏しい北部のとある地域では魔法に代わる機械文明が発達している。 少し話が逸れたが、こうして人間が魔法によって進化を遂げてきた一方で、野生の動物もまた魔法による進化を遂げてきたのだ。 つまり、それが魔獣という訳だ。 普通の猪や熊ならば山からおりてきても作物や家畜を荒らすだけだが、魔獣は人をも襲うのだ。しかも、気紛れに。 故に、魔獣駆逐の為に王室が編成したのが、オリオンを隊長とするこの自警団なのである。
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