一番手 レッド・シグナル

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「──来たれ、気高き黄金の神龍よ!」 隊長の声で、はっと我に返る。 僕は自分の未熟さを恥じた。今は物思いなどにふけっている場合ではないのに! 直ぐ様気持ちと表情とを引き締めて、顔を上げる。 高らかに掲げた隊長の右手の先から煌々と輝く強大な光熱の奔流が生まれ、光の渦は豪快に夜闇を切り裂いて空間を駆け巡り四方を取り囲む骸骨の群れを一瞬にして薙ぎ払い、吹き飛ばし、焼き尽くす。 思わず魔法の凄さに見惚れ、ぼんやりと隊長を見つめて── 目が合った瞬間、身震いが走った。 オリオンの悲壮な眼差しに、思わず呑まれてしまったのだ。 やはり、彼も状況を察し…しかし、覚悟をしている。 「ウールフォルクのヤツ、なんで一人で魔獣のもとに向かったりしたんだ!?」 ネイアドには彼女が自分の意思で飛んで行った様に見えたのだろうが、事実は違う。 皆には、どう言えばよいものか… 「彼女の意思ではない。魔獣に憑依され、身体を奪われたのだ」 隊長が端的に告げると、ネイアドははっと息を呑み、イングバーも聞こえよがしに舌打ちを鳴らす。 こういった展開は以前にもあったので、二人は現状を把握出来たのだろう。つまり、丸く収める術が無いという事を。 「ちょっ…なんだよそれ!?つーか、さっきあいつは魔獣がこっちに来たとか言ってなかったか!?」 あからさまに眉を潜め困惑で声を荒らげてきたのは、アクアだった。 隊長は、ただ静かに頭を振る。 「ウールフォルクには魔力の流れが見えるからな、知覚していたのは恐らく魔獣の意識体だろう。 無数の死体を操り動かしているこの魔力を見た限り、人の身体にも憑依して操れるのかもしれん。最悪のケースだ…」 「なっ──」 アクアの瞳が、驚愕で虚ろに揺れる。こういった精神面の弱さは、やはりまだ子供か… アクアは実力こそ目を見張るものがあるが、部隊の参加歴自体はまだまだ浅い。 確か五代目ウールフォルクの襲名と同時期だったか、雪の魔獣と戦うのにどうしても強力な火の魔法が不可欠とあって少年ながらに部隊へと引っ張って来たのだ。 同期で年齢も近いとあり、アクアが最初に打ち解けたのはウールフォルクだった。
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