一番手 レッド・シグナル

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この状況で感情移入をするなと言うほうが無理だろう、アクアは苛立ちを隠すつもりもないらしく目付きを荒らげ尚も続ける。 「憑依って、じゃあ一体どうするんだよ!?」 「はっ。あいつが襲ってきたらお前は素直に死んでやるのか?」 イングバーが露骨に鼻を鳴らし、アクアの興奮を煽る。 言わんとする事は分からないでもないが、もっと言葉を選べるだろうに。 こいつのこういったところが、やはり好きになれない。 アクアは隊長からイングバーの方へと向き直り、今にも掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。 「そうじゃねぇだろ、どうやって助けるのかって聞いてんだよ!」 「一応、本体を潰しゃ終いだがな。つっても、向こうだって格好の盾を使わねぇ訳もねぇし、ノコノコ本体が出てくる筈もねぇ。その為の憑依体だしな。 ところがどっこい、肝心の五代目がいなきゃ魔獣の位置が分からねぇときてる。つまり──」 イングバーは芝居がかった仕草で肩を竦めると、鼻から短く息を抜いて失笑を漏らした。 「打つ手なしだ。ま、死なねぇ程度に痛めつけて身体を使い物にならなくすりゃあ、勝手に出てくだろ。お前もハラくくれよ」 「なっ…!助ける為に痛めつけるって、おかしいだろ!?」 「必要とあらば」 静かな声音でアクアに即答したのは、隊長だった。 厳しい眼差しを崩さずに淡々と続ける。 「ウールフォルクは継承の儀式からの日も浅く受け継いだ魔力の癒着が不完全で器としても不安定な状態だし、魔法で強引に精神面へ関与して魔獣の憑依解除を試みるのは極めて危険なんだ。 無理に行えば…最悪、精神や人格に後遺症が残る。悔しいが…他に手段がないんだ」 「…オイ、ちょっと待て。不安定だの不完全だの、危ねぇのが分かってて今までずっと連れ回してたのかよ!?」 アクアが、僕らの葛藤の核心を突く。 しかし隊長は、表情を崩す事なく静かに言い放った。
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