プロローグ

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身近な動物の中で最も性格が悪いのは猫だ。 気分屋で自己中で忠誠心なんてない。 少しは犬を見習ってほしいものだ。 なぜ断言できるかって? あたしは同居人の言葉が理解出来るからだ。 「ねえ、水変えてくれない。ホコリが浮いてるんだけど」 「そんなもん避けて飲め」 「嫌よそんなの。どうしても変えてくれないって言うならいいわ、この部屋を出て行くから」 「分かりましたー。変えればいいんでしょ、変えれば」 嫌みったらしく二度言ってやると、そいつは当たり前のような顔で水を待っている。 あたしの嫌みなんてスルーだ。 まったく可愛くない。 ミネラルウォーターはタダじゃないんだぞ。 「早くしてくれない?」 「はいはいはいはいはいはい!」 「そんなに返事しなくてもわかるわよ」 「すみませんねぇ……」 少し乱暴に置いてやった水を小さな舌で丁寧に飲む。 「ぬるいわ……」 「そのくらいいいでしょ、文句言わないでよ」 怒りを抑えながら震える声で言うと、そいつはため息を吐いた。 ため息吐きたいのはこっちだ。 性格の悪いこの猫こそ、あたしの同居人だ。
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