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それは剣道の竹刀だった。 「こいつが何か?アナタに失礼なことをしたなら謝りますけど、乱暴はやめていただけますか?」 「日向っ」 日向は俺をかばうみたいに前に立って、丁寧な口調で熊さんに言う。 ・・竹刀の先は向けたままだけど。 うぅ・・日向はかっこ良いけど、なんか恥ずかしいぞ。 熊さんは竹刀で叩かれた腕を軽く上下にふるって、口の端をあげて苦笑した。 「剣道部の生島か。-おい、東海林。お前のとこの部員に竹刀で叩かれたんだが?」 熊さんが剣道部の方に声を大きくしてそう言うと、稽古をしていた一人が面を取ってこっちに歩いてくる。 細身の一見女性的な綺麗さを持ったヒト。 この汗臭い武道館がとても似合わない人だった。 「はぁ・・素人の胸倉つかむ方のがいけなくない?」 「武道館の窓から中を覗いていたんだ。きっと、女性徒の着替えを覗こうとしたに違いない」 だからその思い込みどうにかなんないのかなぁ、もう。 不満をこめた目で熊さんを睨むと、熊さんは眉をあげて鼻をならした。 「じゃぁ、何をしてたんだ」 「えっと、俺は・・」 何してたんだっけ? ・・あ。 俺が窓を覗いたままじっとしていた理由。 すぐに思い出せたけど、とてもじゃないけど口に出せなかった。 かと言って気の利いた言い訳も浮かばす俺はただただ真っ赤になって俯いた。 ・・言えるわけないじゃないか。日向見とれてたなんて。
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