60人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
帰り道。
すっかり辺りは夕闇に包まれていた。
俺より早く部活が終わった日向は、文句も言わず待っててくれた。
・・なんか、変な感じだ。
いつもは俺が、日向が部活終わるの待ってるから。
お待たせって、駆け寄るのが気恥ずかしくて俺は日向から視線を外して、
「ごめん、遅くなった」
そう小さく呟いた。
「・・いいよ。いつも待ってもらってるから」
「・・うん」
会話が続かなくて、家までの道を無言で歩く。
「なぁ、なんで怒ってんの?
」
いつもなら、日向は会話に困らないように話をふってくれる。
あんまり人には見せないような笑顔で笑ってくれる。
なのに、今の日向はまるで他人と接しているときの日向みたいだ。
「別に怒ってないよ」
「嘘付け」
思わず立ち止まると、日向も足をとめて俺を振り返った。
「知らなかった。直が柔道に興味があったなんて」
「は?」
「・・柔道部に入るなんて一言も言ってなかったのに」
むくれたような日向の顔。
ああ、なんだ。
日向が不機嫌な理由が分かって、俺はへらっと笑った。
「なんだよ。日向拗ねてんのかよ?俺が相談もしないで部活決めたの。日向も子供だなー。大人になれよ」
ぼうっと突っ立ったままの日向の肩を叩けば、ふいにその手が強い力で握られた。
「そうだよ。・・拗ねてる。悪い?・・俺は子供のころから変わってないけど、直はそうじゃないんだね」
「日向・・?」
力が込められていた腕から力が抜け、日向の手の間から俺の手がするりと抜ける。
日向はようやく俺を見て、小さく笑った。
「大人にならなきゃ、いけないよね」
その顔は、泣くのを我慢して笑う子供みたいだ。
「日向…?」
「さ、帰ろう?遅くなっちゃったから急がないと」
「う、うん」
笑う日向の顔に、違和感を感じる。
なんか変だ。日向。
だけれどその違和感が何なのか分からなくて、俺はモヤモヤを抱えたまま日向の後に続いて歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!