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にっこりと微笑むその顔にはまだ幼さが残っている。
「ただいま。ちょっと知り合いの子連れてきたけど、もう今日は閉めるよ」
「はい」
「純ちゃん、紹介するね。俺の恋人の怜」
「はじめまして。怜です」
恋人と紹介されて、その言葉にちくりと胸が痛んだ。
ぎこちなく挨拶をする純に、雅臣はカウンターに座るようにと背中を押した。
「何か飲みますか?」
怜の柔らかい声でそう聞かれて、答えに戸惑う。
「怜、純ちゃんにミネラルと、後はバーボンの水割りでも出してやって。こんな時はアルコール消毒だよ」
買い物袋をカウンターに置きながら優しく笑うと、雅臣は純の隣に座ってきた。
「店、閉めちゃってもいいの?」
申し訳なさそうに雅臣の横顔を覗く。
「んー。もう客も来ないっしょ。まあ、ほっとけないお客さんも来たしね」
雅臣は言わなくても出てきたバーボンのロックを舐めながら、「それで?」と、純の沈みに沈んだ表情の原因を尋ねてきた。
「うん…。もうね、何がなんだかわかんなくなっちゃって。……信じようと思うんだけど、浩哉の気持ちが分からなくて…。…ここ最近は逢ってもくれない」
「ふーん。やっぱり浩哉が純ちゃんをそんな顔にさせたんだ」
「あっ!」
自分の落ち込んでいる原因を、まずは雅臣に話していない事に気づいて、はっとしたが、なんとなく察してくれていただろう雅臣との会話は、こんな曖昧さで始まった。
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