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猫といえども別れは辛い。
俺は当分ペットなど飼う気になれなかった。
しかしそれは俺が高校を出て就職し、二十歳になった頃だった。
俺は高校の同級生とスナックで飲んでいた。
明日も仕事だからと早目に切り上げ店を出た時
店のゴミ箱の横に新聞紙で包まれた何かがあり、そこから微かな声が聞こえて来た。
“ミー、ミー”
包みを手に取り開けてみると産まれたての猫が一匹いた。
それは親指より少し大きいぐらいの大きさで、乳を求めて泣いていた。
「こら、ほっといたら死ぬわ」
見送りに出て来たマスターが言った。
「どうする?」
「どうするも何も、こんなん、ほっとかれへんやん」
俺は子猫を優しく握りしめ家に帰った。
帰るなりミルクをやろうとしたが、小さすぎてスポイトも口に入らない。
死んでしまうんだろうか?
また嫌な記憶が蘇って来た。
その夜は母が胸の間に子猫を挟んで寝た。
翌日、近所の友人の猫が子供を産んだばかりだと母が聞いてきたので、そこに預けた。
運の強い猫だ。
その猫は他のどの子猫より乳を飲み、大きくなって帰ってきた。
ロクより黒っぽいグレーで所々に茶色が入ったメスのトラ猫だ。
額にMの文字がある。思えば名無しの権兵衛もロクもMの文字があった。
俺はロクの次でメスだからナナと名付けた。
ナナはロクほどの俊敏さはないが、賢かった。
そして子供の頃は可愛いかった。
そう、大人になって彼女は人間嫌いになった。
それは俺のせいかも知れないが…
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