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『……とりあえず、マスター』
「わかっているわよ。現状確認でしょ?」
そう言ってもう一度周りを見渡す久魅那。だが、先ほどと変わらず、そこには石造りや木造の建物が建ち並んでいる。
「建物は私達の知っている普通のものだわ。ただ、違うとしたら……」
顔を見上げる。
「……アレね」
そこには、おおよそ“空”というモノは存在していなかった。
広がるのは“海”だ。太陽も月もない、暗めの藍色となっている海が世界を覆っていた。
『おそらくは次元と次元の狭間。もしくは次元間の渦だと思われます』
「でも、次元間においての物質の固定は……」
『いえ、ここの空間、正確にはこの世界だけは比較的安定しています。推測が正しくば、次元と次元の狭間にある世界かと。ついでにいえば、先ほどの霧はなんらかが原因で次元の歪みと直結し、ここへと繋がっていたのかも知れません』
「次元の歪みの原因は?」
『推測不能。現在、解析中』
「わからないことだらけね……」
苦笑しながら、久魅那はあたりをぼんやりと眺める。建物はあるのに人の気配が全くしない。それどころか、犬猫一匹すらいるのかさえ分からないほどに静まりかえっている。
さらにいえば、上空に広がる次元の海に太陽も月も無い故に、今が昼なのか夜なのかも分からない。
呆けるように次元の海空を見上げていた最中、脳内に響くようにそれは聞こえた。
“―――………来ないで!”
「…………ほえ?」
突如、頭の中から聞こえた女の子の声に久魅那は驚いた。
(……な、なに? 今の……)
ふと見下ろして相棒のバイク戦車を見る。
耳に聞こえたならメタトロンにも聞こえているはず。しかし、彼女は何も口(?)を開かないため、おそらく頭の中から聞こえたのは気のせいではないようだ。
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