第3話 凶熱の魔術師

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 見慣れない空に、西洋の建築物を連想させる石と木で作られた建物の中をエルムゴート=アンセムは歩き続けている。 「……人間が作ったってことは間違いねぇようだが」  目を細めて呟く。確かに人間が作った事は間違いが無いようだが、建物の中をのぞけば、そこは人の営みが欠片も感じられない何処か乾いた内装しかなかった。  まるでこの建築物を作った人間が実際を都市を真似て作っただけのように。  実物大の模型に似た空間の中でエルムゴートは面白くなさげにあたりを見回した。  口元に燻らす葉巻を吸いつつ、エルムゴートはさて、どうするかと思いながら近くの建物に背を預けて考えた。 「俺がここに強制的に連れてこられたなら、そう遠からぬうちに、召還者から接触があると見るべきだが」  半ばまで灰になった葉巻を見ながらエルムゴートは思考する。 「さて? 俺を呼んだ人間はどんな輩かね。……知ってるか、小娘」  思考の泉に沈んでいたエルムゴートは、視界の端に移る赤いものに声を投げかけた。柔らかいシルエット、女の子らしいほっそりとした肢体。彼がその身を窶していた東方の島国において神に仕える者が身に纏う白い和装と緋袴に身を包んだ少女がそこにいた。先ほどまでは姿かたちすら存在していなかったにもかかわらず、まるで最初からその場にいたかのように風景に馴染んでいた。
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