第3話 凶熱の魔術師

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 弱い。  目の前の相手は弱すぎるのだ。  全力で魔力を行使し、「爛れる鋼鉄」と仇名を受けるほどの大火力を持って勝利する価値の無いつまらぬ敵。やはり、あの老いた剣聖ぐらいしか俺の敵はいないのか。舌打ちを漏らす。 「我が右腕に握手はいらじ!!」  魔術をかじった人間ならば誰もが理解できる桁外れに精緻で強力な魔術式が赤色の帯を伸ばし、エルムゴートの右腕を覆うように展開される。  禍々しく、そして凄まじいまでの純粋な力に満ちた魔力が形を成そうとする。 「我が求むるは赤子の柔肌を炙りし戦慄すべき炎邪の右腕!! 我が右腕の愛撫を受けし者は、等しく火膨れ、爛れるべし!!」  炎の邪術、ただ純粋に力のみに特化した狂猛な悪鬼の炎が顕現する。 「我が右腕を憑依に、顕現し、完成せよ、シャイニングフィンガー!!」  ごわり、と右腕が太陽と同質の光を放ち、すさまじい高熱で右腕の周りを熱で歪める。  触れえるだけで相手の肉体を爛れさせ、必殺となりうるであろうその右腕を示すようにエルムゴートは燃える腕を掲げた。  接近してきた巨大な機械巨人がその手に持つ巨大な刃物を振り上げる。打ち下ろせば近くの民家も真っ二つに両断するようなその一撃にエルムゴートは侮蔑の失笑を漏らした。 「馬鹿め」  深く、低くエルムゴートの巨躯が沈み込み、相手の下半身に狙いを定めた。その焼け爛れる右腕で相手の足を両断する。恐ろしく堅固で銃弾すらはじき返すであろう相手の装甲をまるで飴のように溶かし、そのまま横薙ぎに振りぬく。攻撃の動作一つで機械人形は己の攻撃の為の態勢を乱され、そのまま仰向けに倒れていった。  ふわり、とエルムゴートの巨躯が浮き、相手の脳天をその爛れる右腕で溶かす。  まるで末期の足掻きのように微細な痙攣を漏らしたその機械人形はそのまま動きを止めた。 「制御系が集中しているのはやはり頭か……!!」  一匹を始末したエルムゴートは続いて別の相手を狙う。銃器を構えた人形。その相手に狙いを定め、口元から灼熱を漏らしながら凶暴な勢いで襲い掛かった。
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