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……ただの一つの例外も無く、頭を飴のように溶かされた鋼鉄の人形どもの屍が散乱している。
その一つに腰を下ろしながらエルムゴートは不機嫌そうに叫んだ。
「糞弱ぇぞ畜生ぉぉ!!」
右腕はもうすでに触れるすべてを焦がし溶かす灼熱を纏ってはいない。だが、変わりに捻り斬った相手の頭が握られている。不愉快げに相手の首を叫びながら投げ飛ばした。
あまりに乱暴なその動作にびくり、と少女が脅えた様に震える。
黒髪をガシガシとかき、エルムゴートは舌打ちを漏らす。並みの人間ならその一瞥をくれただけで怯えるような剣呑な気に満ちたエルムゴートは少女を見て怪訝そうな声を漏らした。
「おい。……あん?」
ふるふると、少女が震えている。その瞳の端には既に涙がたまっている。なんか、泣く寸前だ。
無理からぬかもしれない。一流の殺し屋であり、他者を威圧する空気を備えた、眼光で相手を射竦める凶の気に満ちた見た目がかなり怖い巨躯の魔術師エルムゴート。そんな彼に睨まれれば怯えるのは当然の結果といえた。
だが。殺し屋としての経歴はすさまじいものでも、あいにくと泣く寸前の子供のあやし方など知らぬ男は困惑した様子で少女を見た。
「……おい、なんか腹ぁ痛いのか?」
一応気遣いの言葉をかけてはみたが、少女が怯えていることは大して変わっていない。
「……くそ、いいから泣き止みやがれ小娘!!」
とりあえず要望を言ってはみたが少女からしてみれば内から来る怯えの衝動はそういわれておいそれと静まるものではない。百戦錬磨の猛者であっても泣く子に勝てないのは世の常であり。
感情の堰の決壊が近い少女を前にエルムゴートは、実に似合わぬことに途方にくれた。
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