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その後も、その人間は、その道を何度も行ったり来たりした。足を踏み出す度、重い荷物に体を揺さぶられ、足取りはおぼつかない。明日探そう、とくたくたになりながら野宿をしようとした時。
「お、羊ではないか?」
その人間は既に気付いていた。丘を気付かれないように登り、薄目で遠くを見る。確かにいた。羊の群れ。そして羊飼い。
「今日の夕飯は羊肉かの?久しぶりのご馳走じゃ」
「まさか」
手に持つ短刀は用心のためだ。その人間はリュックから双眼鏡を取り出し、羊の群れを観察した。毛並も良く、丸々太っている、良い羊。
「たまには羊が……」
「うるさい」
モリーの提案を一蹴し、その人間は観察を続ける。群れの中央には山羊が二頭いた。本来、羊は臆病で馬鹿な生き物で、狼などの天敵に襲われると我先にと散り散りになって逃げ惑い、一匹になった所を仕留められてしまう。その反面、山羊は勇猛に角を振り上げ果敢に戦おうとする。羊はそれを良く知っているので、山羊の周りに集まって安全を確保しようとする。こうする事によって、外敵から群れを乱されずに、羊飼いは冷静に対処する事が出来るのだ。
その人間は羊飼いに向かって歩きだす。
山羊はいち早く異変を察知し、雄々しい角を高々と天に突き出した。羊は身を寄せ合い内側を争う。羊飼いはハッと身構える。
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