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「誰だ!」
その人間はフードを外し手を挙げる。
「私はエト。多分」
「儂の名はモリーモリメルスモリメルト」
この近くの町に行きたい、と決まり事のように淡々と言った。
羊飼いはエトとその眼帯を見比べて、安心したように棒を下げた。
「なんだ賞金稼ぎさんか。そうならそうと早く言って下さいよ」
笑顔でエトに手を差し出す。
「……何?」
いぶかしげな目をしているエトに、羊飼いは慌てて説明する。
「あ、すみません。これは『握手』と言って初対面の挨拶や、仲良くなった時にする友愛の儀式なんです」
エトは出された手を無表情に見つめ返し、
「馴れ合いは嫌い」
ぽつりと、しかしはっきりと言った。羊飼いは驚いた様子でうろたえる。
「そ、そうですか。出すぎた真似をしました……」
と虚ろな手を引き戻した。
「すまんな若いの。この子はちぃとばかし繊細でな。恥ずかしがりやさんなんじゃ。どうか尻の青い愚者の戯言だと聞き流してエト指が儂に刺さっとる痛い痛い」
エトは容赦無く眼帯に指を突き刺しモリーを黙らした。
「は、ははは……」
羊飼いはぎこちなく笑った。
「町はどこ?」
痛い痛いとうめくモリーをよそにエトは問う。
「え?ええ、町ですね!」
羊飼いは若干胸をそらし、自慢気に地面を指差した。
「地下ですよ」
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