握手をする人達

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 「よもやこんな場所に隠し階段があるとは思わんかったわい」  コツコツ、と二つの足音が洞窟に響く。  「ええ。見張りというのは中々辛いんですよ。これが」  ふわぁと欠伸をして、羊飼いは肩の骨を鳴らす。  「羊達もそのためです。ここら一帯は遮蔽物が無いですから。ご先祖様の知恵です」  えっへん、と得意そうに鼻を高くした。  「階段を隠している蓋も私達の手製なんですよ。草を張り付けるのに苦労しました」  誇らし気にそう言う。  「昔、この地では争いが多発していました。温暖な気候に豊かな自然。元々ここに住んでいたご先祖様は、それを奪おうと度々侵入して来る野蛮な他部族との抗争にとうとう嫌気が差しました」  「そして潜ったという訳か」  「その通り!ご先祖様は何度も綿密な下調べを行った結果、自分達が住んでいる土地の丁度真下に巨大な空洞がある事を発見したのです!ご先祖様は苦心なされました……。外敵から領土を守り、なおかつ新たな領土を開拓しなければならなかった!犠牲者も日に日に増え、明日に希望を見い出せ無くなった時もありました……。しかし!私達は遂に成し遂げたのです!数十年の時を経て!とうとう!」  「そして潜ったという訳か」  「その通り!私達は自らの手で自由を勝ち取った!私はこう考えます。世界で最も自由で無い人とは、自分が自由だと思い込んでいる人だと!自由とは与えられるのではなく、自らの手で奪い取るものだと!」  羊飼いは興奮してどこかの独裁者のように拳を握り、熱い演説を繰り広げていた。モリーは適当に相槌を打ち、エトはぐぅぐぅと鳴り止まない腹を抑え、思いっきり不機嫌な表情で羊飼いの背中を睨んでいた。
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