握手をする人達

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 暫くすると急だった斜面も次第になだらかになり、平地と変わらない程になった。  「もうすぐですよ」  羊飼いの言葉を待っていたかのように、人の背丈の二倍以上はあろうかという、分厚く堅固そうな門が現れた。門の中央には羊と龍が合体したような動物の絵が彫られており、「微妙じゃな」とモリーは小さな声で評した。  「見て下さい、この威厳に満ちた私達の門を!いかなる衝撃を加えても、この門が私達を裏切る筈はありません!」  エトは何やら思案顔で、その門を叩いたりしている。  「お疲れ様でした。直ちに開門しますので」  そう言い、「おーい今帰った!賞金稼ぎさんも一緒だー!」と叫ぶと、門の向こうからも何やら叫ぶ声が聞こえ、やがて古靴を引きずるようにして門は開かれた。  「ほほう」  「……」  中はとても広かった。壁は黒々とした鉱物で埋め尽くされており、まるで宇宙に放り出されたようだった。天井は仰げる程高く、細い亀裂がいくつも生じている。  「あれは住み始めた頃からありましてね。いつでも新鮮な空気を吸う事が出来ます」  「しかし雨はどうするんじゃ。町が水浸しになるのではないか?」  「ああ、それは心配に及びません。全て天井をつたって下水に流れて行くので」  ほほう、とモリーは感心した。  「賞金稼ぎさん。実は私、ずっと言ってみたい言葉があったんですよ……」  羊飼いはごほんごほんと喉を鳴らし、襟をパリッと整え、改まった様子で嬉しそうに言った。  「ようこそ、我々の町へ!」  羊飼いの笑顔は清々しかった。  「お腹減った……」  エトの胃は空っぽだった。
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