一人目

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この時間ならまだやっているはずだ。 僕はおじさんが見失なわないように、何度か振り返りながら目的の場所に向かった。 店は暗くシャッターを閉めていた。 僕は手でシャッターをひっかき、大声で鳴き続けた。 何度も…何度も… おじさんは 「もういいから。」 優しい声で僕に言った。 だが、僕は鳴くことを止めない。 奥の方から音が聞こえた。僕は大声で鳴く。 ニャー シャッターがあがっていく。優しい光が僕とおじさんを照らした。店から見なれた太ったおじさんが出てきた。 「やっぱりお前か。こんな遅くにどうした?」 太ったケーキ屋のおじさんが僕に言った。いつも僕にご飯をくれる優しい人だ。 僕はおじさんを見た。 おじさんは一歩前に出て 「あの……クリスマスケーキありますか?」 と太ったおじさんに言った。 「ああ…あるとも」 笑顔で答える。 「一つください」 太ったおじさんは丁寧に包装しおじさんに渡した。 「ありがとうございます」 涙声になりながらおじさんはケーキを受け取った。 おじさんは僕を見て。 「本当にありがとう。君のおかげで娘との約束が叶えられそうだ」 おじさんは満面の笑みで僕に言った。 「あ、そうだ。寒いだろうからこれあげるよ」 とおじさんのマフラーを僕にくれた。 とても暖かかったが大きい。 だが、人生で初めてのプレゼントに僕は嬉しくなり走り出した。 遠くのほうからおじさんの声がしたが、今の僕には聞こえなかった。
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