可笑しな戯曲

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 せっかくの昼休みだが、夜に対しての贖罪でもある。ならば、甘んじて受け入れようと思う。 「どうですか体調の方は?」 「大丈夫ですよ」  うん、今時珍しい礼儀正しい子だ。  だが、明らかに体調が良さそうに見えない。  なんというか、顔立ちに相反する白さがある。  言わば、青白い。 「どうして心臓外科に行くんですか?」 「精神科に行ったときにいつもの発作が起きたみたいなんで用心して行くんです」  なるほど、道理でか弱いイメージが拭えないわけだ。 「結構小さなときからあったみたいなんですけど、忘れちゃいました」 「明るく言っちゃダメな台詞ですよね」 「あはは……記憶喪失なんですよ」  私は瞬間的に夜を思い出した。 「あ、あそこですね。ありがとうございます。とても、話しやすかったです」  心臓外科の場所がわかると、車椅子の女の子はそこの受け付けに一人で行ってしまった。 「ふむ……」  私は売店へ足を向ける一方で、頭の中では記憶喪失の文字が回っているのだった。
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