特別なこと

5/6
151人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
何を言えなくなった私に柚子は優しく話を続けた。 「果奈はどうしたいの? 今までみたいに瀬野を避け続けるってなら、 それはそれで瀬野もわかってくれるってことだよ? それでいいの?」 今までみたいに彼を避け続けて、 うつむいて前を見ないでいる・・ それならそれで誰にも迷惑はかからない、そう思ったその時・・ ふっと花火大会の、あの眩しい彼の笑顔が見えた、ような気がした。 「そんなの・・嫌」 自然と口から出た言葉に驚き、両手で口を押さえた。 そんな私に柚子は少し驚いた顔を見せたが、すぐ微笑んだ。 「果奈は自分に自信無さすぎなのよ。我慢しすぎ。もっと我が儘になっていいと思う。」 「我が儘に?」 不思議そうな私に柚子が言葉を続けた。 「果奈が望むのは一つだけでしょ。 私が言わなくても自分が一番わかってるはずよ。」 そう。私が唯一望むこと。 それは・・ 昔のように彼の隣にいたい。 花火大会で彼と会って 彼と話して、彼の笑顔を見て・・ そして彼の手の温もりを感じて・・改めて思う。 やっぱり彼のそばにいたい。 今のままはいや。 何かつっかえていたものがとれたような気がして 自然と笑顔になった。 そんな私を見て柚子が言った。 「答えが見つかったところで次は瀬野にどう伝えるかよ。」 柚子がニヤリと笑った。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!