窓の外は雨

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遠くでセミの鳴く声が聞こえる。 セミってのは臆病な生き物でその一生の大半を引きこもって生きているそうな。 だが、セミが恐れるのも無理は無い。 下界は敵だらけだ。 引き籠もりたくも成るであろう。 セミは、自分に危機が迫るとけたたましい鳴き声を上げる。 アリに噛まれた時、スズメバチに刺された時、カマキリに掴まれた時、カラスについばまれた時、そして邪気で残酷な子供に鷲掴みにされた時。 それ見ろ、セミは恐怖で地上に上がって一週間足らずで参ってしまうのだ。 無論セミだけじゃあ無い。 ホタルやカゲロウだってそうだ。 ホタルは地上に上がってからは水しか飲まず、カゲロウに至っては物を食わないと言う。 如何に恐怖が生命に関わるかが分かるであろう。 今の義正がそうだ。 彼は外に出るのを恐れていた。 亡き妻君との数々の思い出が彼を襲うからだ。
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