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何処と無く冷めた部屋、人は誰もそう言うだろう。
ホコリをかぶったテレビ、山積みの段ボール、こびりついた線香の匂い。
何処からかだろうか、紙をめくる音が聞こえる。
シンクから、轟音が成り、砕けた瀬戸物の悲鳴がこだまする。
義正は、布団に籠っていた。
綺麗だった部屋は荒れ始めた。
義正の周りはゴミが囲い、つまらぬ菓子のつまみカスが転がっていた。
義正は動かなく成った。
彼が動くのは便所に行く時と、生協の物を取りに行く時、そして風呂に入る時だけだ。
仏壇は開けっ放しで白い綿が被り、線香の灰が舞っていた。
義正はただただ本を読んでいた。
田山花袋の『蒲団』なんか読んでいる。
彼の枕元には、島崎藤村の『破戒』がストックされていた。
もう、このみすぼらしい男に声をかける者はいない。
義正は酒こそ呑まなかった。
だが、その「臭い」は酒呑みとはまた違った悲しい「臭い」だ。
大衆はそれを「嫌いじゃ無いが近寄りたく無い」と言う曖昧な評価をする。
勝手にしろ。
義正は身体を少し起こし、柿の種の袋を開けてピーナッツをまさぐり出した。
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