上機嫌なジプシー

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軽く散髪椅子の周りを掃き清めた後、座るように促された。 ドキドキしながら椅子に座る。革張りで、足元のレバーで高さが調整できる昔ながらの椅子だ。昔通っていた、佐藤さんのお店と同タイプの。 首にタオルが巻かれる。シートを着せてもらう。そして、膝掛け。 「ちょっと重いですから、足が痺れてきたら問答無用で叩き落して下さいね、でも本当に良いんですか?」 「ええ、大丈夫ですよ」 膝に乗ってきた猫は確かにちょっと重かったけど。 でも人間より温かい体温とゴロゴロと響いてくる喉を鳴らす音が気持ちよくてあまり気にならない。 「フクちゃんは今までも何人もその、私みたいに誰かを連れてきたり?」 「ええ、誘導されたとか、ナンパされたとか皆さん笑って仰いますよ。その後から髭剃りとか洗髪だけにお見えになる方もいますし、何の用もなくいらっしゃる方も。まぁ大体皆さんこいつに会いに、らしいんですが」 苦笑いしながら店主が私の髪をピンで上げていく。 「フクはね、嫁に行った娘が飼っていた猫で」 「そうなんですか」 私が猫が好きだ、と見てだろうか。店主は膝の上の猫のことを色々教えてくれた。そしてこの店の事も。 奥さんを早くに亡くして、店主一人で店を切り盛りしていて。 一人娘が居るのだが、彼女だけが家で一人ぼっちでお留守番じゃ寂しかろうと、知人が猫を貰ってきた。 最初は可愛らしい小さな三毛猫だったのに、あっという間に堂々とした招き猫のようなデブ猫になって。 「こいつ、今年で15歳になるんですよ」 「へぇ、じゃあ結構なお婆ちゃんですね」 「態度と貫禄だけはもう年々成長してます」
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