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やがて娘さんが遠くにお嫁に行く事となり……。嫁ぐ前の晩に、娘さんは店主にこう言ったらしい。
「あのね、お父さんのことが心配だから、後の事はお願いねってフクに言っておいたから」
「……フクに、って。猫に頼んだのかい?」
笑ってしまった店主に、娘さんは胸を張って応えた。
「あら、知らないのね父さん。あの子、あれで中々凄いんだから。まぁ見てなさいよ、お店、これからきっとそこそこ繁盛するから」
家でずっと留守番をしていた猫が、店主と一緒に理髪店まで出勤するようになったのはその後からだった。勝手に後を付いてくる。そして、ふらっと散歩に出たかと思うと……。
「あいつ、猫好きなお客さんを連れて帰ってくるんですよね」
ぽつぽつと、常連客が増えた。でもあくまでぽつぽつ程度。ある程度人が来たら、猫はず~っと床の上で寝ている。たまにお客さんの膝でも寝る。金魚をじっと見つめて手を伸ばしたり引っ込めたりもする。
「私は実は娘が飼うまで猫ってあまり好きじゃなかったんですよ。犬と違って、あんまり懐かないじゃないですか。でもねぇさり気無く、ふっと近くにいるんですよね。気が付くと」
振り向いたら、居たりする。そして目が合ったら「なっ!」と鳴いたりする。
公園で会った時みたいに。憂鬱で溜息を付いていると、「なぁに?」とこっちを首を傾げて見ていたりする。
「猫ってたまに美人とかミステリアスな雰囲気で例えられたりするじゃないですか」
でも私は違うと思うんだよなぁ、と店主は笑って言った。
「ありゃ刑事コロンボで言うところの家のかみさん、ですよ」
素っ気無くて、無愛想で、でも構わないと纏わりついてきたりする。なんだかちょっとふてぶてしくて、でも憎めない、そんな「家族」
「古女房タイプですよね、家のフクは」
嬉しそうに店主は語った。まさに「家のかみさんはね」と切り出す時の、嬉しそうな照れくさそうな刑事コロンボみたいな表情だった。
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