上機嫌なジプシー

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「長さはこんな感じでよろしいですかね?」 店主に問われて、鏡の中の自分をまじまじと見つめて、私は思いっきり頷いた。 「はい!」 髪を洗ってもらう、乾かしてもらう。猫は膝から下りて、傍らの床の上で眠っていた。飛び起きたのは私がお勘定を払って店を出ようとした時だ。 とととっ、とこちらにやって来る。先ほどの佐々木さんみたく、見送ってくれるのだろうかと期待したのに。 そのまま脇を駆け抜けて小さな扉から外へ出て行く。 「なんだお前、散歩に行くのかい?」 店主の呼びかけに「うなん!」という声だけが返ってきた。 「やれやれ、無愛想なやつだなぁ、すいませんね」 「いえいえ。えっと、こちらは来る時は予約した方が良いんですかね?」 「そうですねぇ。でもまぁ大抵こんな感じですよ。お客さんはぽつぽつですから、一時間以上待ちは滅多に無いので大丈夫です」 「わかりました、じゃまた来月か再来月くらいに……」 ここ四年間で、私は一度も口にしなかった言葉を店主に告げた。 「また、髪、切りにきます!」 「はい、ありがとうございます。お待ちしてますね」 深々と頭を下た店主に見送られて私は外へ出た。カラン、と小さくカウベルが響く。店の前の道路には……。 「なっ!」 まるで私を待っているかのように三毛猫が座っていた。
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