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「あれ、散歩に行ったんじゃなかったの?ありがとうね、良いお店教えてくれて」
しゃがんで頭を撫でながらそう言うと猫は私を見上げて「うにゃん!」と可愛らしく鳴き、確かににんまりと笑ったのだった。
まるで「うちの主人は凄いでしょ」と言いたげに。
そしてくるり、と踵を返し道をとことこ歩いていった。大きなおしりをぷりぷり揺らしながら。
また猫好きを見つけてナンパしてくるのかもしれない。
なんだかスキップでもしたいような楽しい気分で私は元来た道を戻る。
きちんと顔を上げて。辺りの家のガラス窓に影が映っても、もう全然気にならない。
鞄から携帯を取り出す。
「シューヤ、まだ寝てたの?あのねあのね、すぐ起きて準備して!映画、もう間に合わないけどお昼ご飯一緒行こうよ、私が奢るから」
まくし立てると、まだ少し眠そうな、でもちょっと笑っているような声が聞こえて来た。
「なんだ、どうしたエーコ、やたら元気だな」
「あのねぇ、見せたい物が有るんだよ、あと話したい面白い事もさ!」
えへへ、と耳の下辺りで切りそろえられた自分の髪に手をやった。
ショートカットは初めてだけど、なんだか軽くてそしてとても自然な仕上がりで。結構似合うんじゃないかと今の私は自惚れているのだ。
彼は何と言うだろうか、へらっと笑って「うん、可愛いんじゃない?」とか言ってくれるだろうか。
話したい事が山ほど有るのだ。
面白い猫と遭遇した事。そして猫にナンパされて、行きたかった場所に案内してもらって……。
「ジプシーがどうやら安住の大陸を発見できそうなんだよ!」
「……え?世界史か何か?」
「ち~が~う!」
よく晴れた五月の日曜日、午後十二時四十分。
私は軽快な足取りで住宅街を歩いていた。風船を一つつけたら、空に浮かびそうなくらい浮き足立っている。
とにかく、その日の私はとっても幸せな気分だったのだ。
END
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