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彼女は一度身を強張らせると顔を伏せ、目をキツく閉じた。
ああ、恐がらせてしまったんだね…。
「……大丈夫。恐くない。」
触れた彼女の肌は、見た目よりも遙かに冷たかった。
彼女はどんな人生を歩んできたのだろう。
薄汚れたその毛並みは、どんな道を歩いて、どんな経験をした結果なんだろう。
愛おしそうに押し付けるその頭で、何を感じ、何を嘆いてきたのだろう。
その冷たい、温かな瞳は、何を写し、何を求めていたんだろうか。
彼女の人生のほんの一部に、僕は関わってしまった。
「僕の名前はカイ。日本では[海]と書いてカイと読むんだ。君は…、君にも名前はある?」
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