第一章/人間になりたい猫

2/6
前へ
/45ページ
次へ
今は?     今は変な女に飼われているんだ。おばけみたいに化粧が濃い、ブス。昨日の夜中、駐車場の脇で魚肉ソーセージに釣られて捕獲された。   不覚だった。     冗談じゃない。外に出せ。     こんなアルコールとヤニで濁った部屋、ゴメンだ。葉っぱの上を歩きたい。ひなたぼっこしたい。       あー畜生、出せ出せ出せ!!     「おい、その黒猫黙らせろよー」   ベッドの上にいる変な男が僕に空き缶を投げつけた。中にまだ少し残ってたのか、生ぬるいライム酒が僕の背中にピシャリとかかる。   「もー、悠くんやめてよぉ。暴力はんたーい。キャハハ」   酒臭いブス女がタコみたいにぐにゃりと揺れた。   僕を抱きかかえ、何をするかと思いきや、押し入れの中へポイッと放り込んだ。     女は小声で言う。     「ちょっとだけ我慢しててねー」       僕は闇の中、この弱い体を恨んだ。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加