第一章/人間になりたい猫

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「安心しなさい。誰もお前を取って食いはしないよ」     「誰だ」     どこから声がするのか分からない。脈の主か?   「おばけか?」   「私はおばけなんかじゃあないよ。まぁ人間でもないけど」   「なぞなぞか?」   「なぞなぞでもないよ。私はカミサマ。君にチャンスを与えてあげるよ」     「チャンス?」   「ああ。君は今の体に大分不満らしいね」   僕はこくんこくんと二回頷いた。   「だいっきらいさ。弱いしちっちゃいし、今だってホラ、人間のいい退屈しのぎにされてる」   「人間は嫌いか?」   「人間……好きではないね。いじわるだし汚いから」   「そうか……お前、人間になりたいとは思わないかい?」   「人間?」   「ああ人間だ」   「僕が?」   「ああ。しかしただではやらんよ」   「まだなりたいなんて言ってないよ」   「人間になりたくないのかい?」   「……わからない。なんだか恐そう」   「でももう石を投げられたり、腹に落書きされたり、頭の毛をちぎられたりもなくなるんだよ?」   ゴクリ。     僕は息を飲んだ。   人間になれば抜け出せる。   弱い自分に。   何も出来ない自分に。     「どうするんだ? 人間になりたいか、なりたくないか……」   「わかった、僕人間になる。強くなりたいんだ」   僕がカミサマの誘いに答えた瞬間、さっきまで聞こえてた脈の音が耳元近くまで聞こえてきた。
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