第一章/人間になりたい猫

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  「それは今日からお前の物だ」         すると足元に何かが転がってきた。ひんやりと冷たい。   「これは……何?」   僕がそいつに触れた瞬間、辺りがパッと明るくなった。     だけどそこは押し入れの中なんかじゃなくて、真っ白い綿雲の上だった。     僕の足元には、灰色の球体。     「これは……」   「これはいわば君の命。正確に言うと、君が人間になった時の」   声のする方を見ると、そこには背中に大きな翼を持った男が立っていた。    100パーこいつがカミサマだろう。違いない。   「じゃあこれで僕も人間になれるの?」     僕がその球体を触ろうとしたら、カミサマがひょいっと取り上げた。   「言ったでしょう。ただではやらんとな」   「どうすればいいの?」   「涙を集めるんだよ」   カミサマは、灰色の球体を手のひらでくるくる転がしている。   「涙? なんだそりゃ。」   「そうか、お前は涙を流した事がないんだね」   「うん、知らない」   「涙はね、人間がよく流すんだ。悲しみや不幸が抱えきれなくなった時、目から流れてくるんだ。透明な液体さ」   「なんだそりゃ、気持ち悪い。そんなので人間になれるの?」   「ああ、しかしいくつかルールがある」   カミサマがそう言うのと同時に、僕の足元に広がっていた綿雲がぷちぷちと弾けて消え始めた。   「お前の手で涙を流させること。涙の原因に関与してなければそれはカウントされない。そして、絶対に破っちゃいけないルールが一つある」   「なっ、何?」     「お前が涙を流してはいけない。もし流したら、そこで“終了”だ。この命の玉はおろか、お前が今左に抱えている命も私が貰う」     僕は消えていく綿雲から落ちないように、慎重に足場を移った。    
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