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「それは今日からお前の物だ」
すると足元に何かが転がってきた。ひんやりと冷たい。
「これは……何?」
僕がそいつに触れた瞬間、辺りがパッと明るくなった。
だけどそこは押し入れの中なんかじゃなくて、真っ白い綿雲の上だった。
僕の足元には、灰色の球体。
「これは……」
「これはいわば君の命。正確に言うと、君が人間になった時の」
声のする方を見ると、そこには背中に大きな翼を持った男が立っていた。
100パーこいつがカミサマだろう。違いない。
「じゃあこれで僕も人間になれるの?」
僕がその球体を触ろうとしたら、カミサマがひょいっと取り上げた。
「言ったでしょう。ただではやらんとな」
「どうすればいいの?」
「涙を集めるんだよ」
カミサマは、灰色の球体を手のひらでくるくる転がしている。
「涙? なんだそりゃ。」
「そうか、お前は涙を流した事がないんだね」
「うん、知らない」
「涙はね、人間がよく流すんだ。悲しみや不幸が抱えきれなくなった時、目から流れてくるんだ。透明な液体さ」
「なんだそりゃ、気持ち悪い。そんなので人間になれるの?」
「ああ、しかしいくつかルールがある」
カミサマがそう言うのと同時に、僕の足元に広がっていた綿雲がぷちぷちと弾けて消え始めた。
「お前の手で涙を流させること。涙の原因に関与してなければそれはカウントされない。そして、絶対に破っちゃいけないルールが一つある」
「なっ、何?」
「お前が涙を流してはいけない。もし流したら、そこで“終了”だ。この命の玉はおろか、お前が今左に抱えている命も私が貰う」
僕は消えていく綿雲から落ちないように、慎重に足場を移った。
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