第二章/100人目の涙

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人間になったら何をしよう。     美味しいものをたらふく食べて、いろんな所へ……そうだ、昔先輩猫から聞いた“ゆうえんち”ってやつに行ってみたいな。     それからあのブス女と暴力男のほっぺも叩いてやらないと。     それからそれから――     「あっ、ねこちゃんだ」     僕が夢を膨らませながらフラフラ歩いていると、背後から少女の声がした。どうやらいつも散策するルートと離れてしまったらしい。見慣れない砂利道の先に白い建物が見える。すぐに僕は警戒体勢に入った。   「だいじょーぶだよ。こわがらないでね、いーこいーこ」   年は5才ほどか。2つ結びの少女は唐突にも、僕の頭に触ろうとした。   僕はさらりと避け、手始めに左手の甲をひっかいた。     しかし少女は泣かなかった。泣かないばかりか笑っている。   なんだこいつ。   僕は気味が悪くなって、少女から三歩離れた。だけどもすぐに少女は三歩近づいてくる。   僕が五歩下がれば五歩近づいて、僕が上を見上げると少女も同じように上を見上げた。     「なんかいるの? まだおひるだよ、おほしさまはみえないよ」   なんだか調子が狂う。   今まで出会ってきた子供とどこか違う。風貌は同じなのに、瞳の奥で見つめている世界がまるで違う。   「もうすぐでゆうちゃんね、おくすりのじかんだからいかなくちゃ。ねこさん、ばいばーい」     そう言うと少女は奥にある白い建物に入っていった。   まるで風のような少女だ。   掴めない、何かが違う。   今までいろんな涙を見てきたけれど、あの子の目は違う。     あれはきっとそう   涙が枯れきった目だ。      
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