たからもの

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「りりぃ、おはよー!」 始業式の朝。 いつものように、玄関から飛び出すと、 幼なじみの優人(ユウト)が、門の前で待っていた。 「おはよー!って、もう一人で行けるって言ったのに。」 私の話などお構い無しに、一緒に外に出てきた、猫のさくらに優人は声をかけていた。 「なんだ、お前今日もご主人様のお見送りか?」 シャーッ さくらが、全身の毛を逆立て、優人を威嚇する。 「相変わらずのナイトぶりだな。」 「毎朝、毎朝、懲りないね優人。このこ、男苦手なんだから、いい加減にしなよ。」 言いながら、さくらの頭を撫でてあげると、さくらは、嬉しそうに喉を鳴らした。 「行ってきます。さくら。」 ミャウ 可愛らしい声で返事をするさくらは、門柱の上に移動すると、私たちの姿が見えなくなるまで、ずっと見送ってくれる。 「あいつ、お前んち来てから、5年もたつのに、一向に俺になつく様子がない。」 優人が悔しそうに唇を噛んだ。 「もう、諦めなよ。パパや、にぃににだって、心底なついてないんだからさぁ。」 毎朝の会話はいつも、こんな感じだ。 もう、何年も続いていて、朝の儀式みたい。 次の角を曲がると、もうひとりの幼なじみ、涼子(リョウコ)が、少しイラつきながら、私たちを待っている。 「あんたら、遅いっつーの。」 今日も、やっぱり半ギレだ。 「ごめーん。おはよ、涼。」 「よっ。」 3人並んで登校する。 いつもと変わらない朝。 でも、これからは、いつもと違うかもしれない朝。
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