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ガラッ。
前方の扉が開いて、駆け込んでくる担任の先生。息を切らしているようだ。わたしは、何事かと思った。
「み、みんな、落ち着いて、落ち着いて聞いて、聞いてください」
先生が落ち着いてよ。
先生以外、みな、席に着いて、すでに落ち着いているというのに。
わたしは、じっと、先生の言葉を待つ。
「…が亡くなりました」
―えっ?
教室中がざわざわしだす。
―誰って言ったの?
「東太陽くんが、今朝、道路に飛び出した子どもを助けようとして、車にはねられ、そのまま、息を引き取りました」
聞き間違い…だよね?
何かの冗談?悪い冗談やめてよ。まさか、太陽くんが、死んじゃったなんて、
嘘つくのやめてよ。大人が嘘ついていい日は…エイプリールフールの日だけ。まだ1ヶ月もあるのに。先生、間違ったんじゃないの?
「今日、夜7時からお通夜があります。皆、行ってあげてください」
先生の顔が、涙に濡れていた。周りの生徒も、悲痛な顔をしていた。泣いている女の子が、いっぱいいた。
太陽くんの友達の男の子は、
「タイヨウ」
と彼の名前を呼び続けていた。
わたしの好きな人の名前は、太陽くん。小6からずっと、好きだった。これからも好きでいるつもりでいた。
見てるだけでよかった。
それだけでよかったのに、
どうして、どうして、
彼が、彼が…
先生の悪い冗談じゃないと、わたしは知った。クラスの雰囲気が、変わった。今まで騒がしかった教室が、一気に暗くなった。
「今日は、家に帰って、ゆっくりしてください」
先生がそう告げ、教室を出て行く。
先生が出て行った後、クラスメートの泣く声が、教室中を貫いた。その悲痛な叫びに、わたしは胸が痛くなった。
どうして、わたし、彼らのように、泣けないんだろう。涙が一滴も出てこなかった。どこかで、太陽くんが生きているような気がして、ならなかったのだ。
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