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春風が、繁華街の中をすり抜け、わたしの髪に当たる。ふわっと浮き上がったわたしの髪の毛は、さやさや、と音をたてた。
明日は、向坂高校の入学式。
その準備のために、繁華街に訪れた。
受験のために使い切ってしまったせいで、文房具がほとんどない。
なんとなく、外に出ることを躊躇っていたのかもしれない。
3月1日、卒業式の日から、
わたしは、外出をほとんどしていない。
一日中、家でのんびり過ごしていた。
受験勉強も終わり、卒業もして、今は晴れ晴れしい高校生活を待ち遠しくしている時期のはずなのに、心が晴れない。暗い雲がわたしの心を覆っている。今にも雨が降りそうだ。
太陽くんの死に顔は、安らかだったのだと、
クラスメートに聞いた。
「何で、お通夜もお葬式も、来なかったの?」
太陽くんのことを好きだった女子が、わたしを責めるように、言った。
「いくら、あなたが太陽と仲良くしてなかったからって、お葬式は、卒業式の日だったから仕方ないけれど、お通夜には来るべきだったんじゃない?違う?」
わたしは、何も答えられなかった。
ごめんなさい、太陽くん。
わたし、あなたの最後の顔見られなかった。
わたしがいなくても、多分、ううん、絶対。
あなたは、まったく困らなかったのでしょうけど。
クラスメートがみんな太陽くんに会いにきてくれて、
嬉しかったでしょう。
わたしは、太陽くんのこと好きだったけれど、
太陽くんは、わたしのことなんて、知らないんだ。
ろくに話したこともなかったんだから。
でも、本当にごめんなさい。
怖かったの。わたしが、あなたのことを好きだって、
知られてしまうのが。そして、あなたがもうこの世にいない人だって思い知らされてしまうのが。
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