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「俺、1人で持てるから、先に教室戻ってていいよ」
「え、でも」
「いいから、遅くなると、みんなに迷惑かかるだろ」
心が沈んだ。太陽くんは、困っているわたしをみて、手伝おうかって言ってくれわけじゃない。みんなに急かされたんだ。おかず係が遅いって。きっと、太陽くんは、優しくて、人気者だから、「俺が行こうか」って言って、わたしを迎えにきたんだ。
どうしよう、わたし、
「檜山?え?何で?」
止まらない、涙が。どうしよう、止まらないよ。
目の前であたふたしている太陽くん。ごめん、困らせるつもりなんてないのに。自分が情けなくて嫌になる。
「もしかして、檜山、バケツ持ちたかった?」
太陽くんのその言葉に、びっくりして涙が止まった。
「ごめん、気が利かなくて」
太陽くんの申し訳なさそうな顔が、わたしの瞳に映る。全校生徒の中に、果たして、この給食のバケツを本気で持ちたいと思っている生徒が、いるのだろうかと想像して、わたしは、ちょっと笑ってしまった。太陽くんは、わたしをそんな生徒だとカン違いしてるのだ。
「ううん、違うの。目にゴミが入っちゃっただけ。ありがとう。わたしが持っていくと遅くなるから、よろしくお願いします」
わたしは、太陽くんにバケツを渡した。
太陽くんは、ほっとしたような顔になって、教室へそれを運んで行った。
わたしは太陽くんの後ろ姿をみつめながら、
いい人だな、東太陽くん、と思った。
これが恋の始まり。それから彼を眺めるのが日課になった。
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