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少女「っ…」
少年1「捨て子のくせに!」
少年2「…お前なんか…もっと痛い目見ればいいんだよ!」
一人の少年が、
近くに捨てられていた古びた鉄の棒を拾い、
振り上げた。
男「……。」
ガッ!
少女の悲鳴も、少年達の笑い声も、
どちらも聞こえなかった。
その代わりに。
少年2「な…!!」
男「…!」
少女は、振り下ろされた鉄の棒を
その小さな手一つで受け止めていた。
手のひらの中の棒が、
パキッと微かに音を立てた。
少女はその棒を強く握りしめると、
少年ごと振り払った。
少年2「うわぁ!」
少年はそのまま地面に叩きつけられた。
その小柄な体からは想像もできないほどの、
強い衝撃であった。
少女「……。」
少女は下を向いたまま、
表情を窺う事はできない。
少年1「…………」
少年3「…う、か…母ちゃぁぁぁん!!」
その様子を見ていた一人が、
我に返ると泣きながらその場から逃げだした。
少年2「ま、待ってよ!」
立ち上がれずに泣き出す少年を、
残ったもう一人が慌てて助け起こす。
少年1「お前…このままで済むと思うなよ!この暴力女ぁ!!」
そう言い残し、
少年達は空き地から走り去って行った。
男「……。」
(あの子供…)
少女「……。」
少しして、
少女はゆっくりと体を起こした。
寒さに、ふるりと体が震えた。
寒さの為か、うまく動けない。
このまま、ここで…
もう駄目だと思ったその時、
ふわりと体が暖かくなった。
少女「…!」
見上げると、
笠を被った若い男が立っていた。
着ていた羽織りをかけてくれたのだ。
男「……。」
少女「あの……、ありがとうございます…。でも…寒くないですか…?」
律儀にお辞儀をする少女が問いかけるその声は、
なんともか弱いものであった。
男「…別に。」
この時少女は、
初めて、あの家の人間以外と会話をした。
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