第1章 第2話

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霧生「おい。」 あれから二人は港に出て、 船に乗っていた。 どこへ行こうとしているのかは霧生しか知らない。 霧生「……。」 船はあまり綺麗なものではなく、 あまり大きなものでもない。 夜中の為か、 乗客もあまり多くない。 船内の大部屋で、 乗客たちは互いに離れて座っている。 駆け落ちしたであろう男女や、 目つきの悪い男達、 顔に傷のある老人などが乗っている。 そんな中で、 少女は体を小さく丸めるようにして眠ってしまった。 霧生「……。」 声をかけたが起きないので、 そのままにしておくことにした。 しばらく、 霧生は少女を見つめていた。 膝を抱えるように、 横になって体を丸めて眠る少女。 霧生「……。」 (まさか、な…。) 静まり返った船は、 ゆっくりと進んでいく。 ゴトッという鈍い音が聞こえた。 すると、 周りが何やらガサガサし始めた。 少女「…ん…」 少女はゆっくりと目を開け、 何度か瞬きすると 勢いよく飛び起きた。 霧生「起きたか。」 少女「……。」 霧生「……。」 少女「……。」 霧生「…おはよう。」 霧生はぼそりと呟いた。 少女「あ、お、おはようございます…。」 霧生「降りるぞ。」 少女「あ…はい!」 寝ぼけているのと寒さで、 少女はふらふらと霧生の後について行く。 船を降りると、 一気に寒さが増した。 体中を冷たい針に刺されているような感覚だった。 少女は空を仰ぐ。 雪は降っていない。 辺りはまだ随分と暗い。 ふと気が付くと、霧生は出会った時のように笠をかぶり、 先に歩き出していた。 少女は慌ててその後を追いかけた。 歩いて行くと、町に出た。 日の出前の為、 誰も出歩いていない。 静まり返っていて、 人気も無い。 その後も町をただひたすら歩いて行くと、 霧生は一軒の旅館の前で立ち止まった。 旅館は古い佇まいだが、 大きく、なかなか立派なものであった。 霧生はその旅館の扉を軽く叩いた。 少しして、気の弱そうな顔の女将が扉を開けた。 女将「いらっしゃいませ。」 霧生は中に入り、 外でつっ立ったままでいる少女に入るよう促した。 少女が入ると、 女将は静かに扉を閉めた。
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