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初めて貰った名前。
勿論、『以前』にも
名前はあったのかもしれない。
けれど、そんな事は関係無い。
『今』の自分にとっては
とても嬉しい事なのだ。
名前もなく、自分については何も知らず、
そんな自分が、
誰かの役に立てるようになるかもしれないだなんて、
思いもしなかった。
れん「……。」
(この名前は、大切にします…。そしてきっと、あなたのお役に立ちます。何ができるか分からないけど…。私を連れ出してくれて、名前もくれたこの恩は…絶対に…忘れない…。)
霧生「さて、行くとするか。」
れん「…どこへ、ですか?」
霧生「その薄い服で、ずっと俺の羽織りを羽織っとくわけにはいくまい。お前の服を買いに行くんだよ。」
れん「…けど、あの…お金は…」
霧生「ガキが金の心配してんじゃねェよ。」
霧生が微かに笑ったような気がした。
下の階に下りると、女将が声をかけてきた。
女将「…お出かけですか?」
霧生「…あぁ。」
女将「お気をつけて。」
霧生「……。」
外へ出ると、
急に寒さに襲われた。
れん「…っ」
霧生「…本当に寒がりだなお前…大丈夫か?」
霧生の方は、旅館から別の羽織を借りていた。
れん「…寒くないんですか?」
霧生「寒い。」
れん「全然そんな風に見えないです…。」
霧生「あ?」
れん「…何でもないです。」
二人はてくてくと町を歩いていく。
れんは、自分の名前の由来や、
何故外へ出る時に笠を被るのかとか、
その目はどうしたのかとか、
霧生の下の名前は何なのかとか、
色々と話しかけたかった。
何より、霧生の事をもっと知りたかった。
だが、何から話していいのか、
聞いてもいいのかどうかも分からなかった。
れん「……。」
霧生「何を考えている?」
れん「いえ、何も…。」
霧生「…そうか。」
れん「……。」
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