第1章 第1話

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二人はそのまま空き地で座り込んでいた。 暫く沈黙が続き、 話しかけたのは少女だった。 少女「あの…あなたのお名前は…?」 男「…人に名前聞く時は、まず自分が名乗るのが礼儀ってもんじゃねェか?」 少女「…ごめんなさい。…私…名前が…無いんです。」 男「…無い?」 少女「あの…私、捨て子…らしいんですけど…覚えてるのは、つい最近から…なんです。 ある日突然、目が覚めたら…今いる家だったんです。分からないことだらけで、でも、周りの人の話からしたら、そうなんだろうって思って…。 それより前に…自分が何で、いつ、どこでどうやって拾われたとか…何も、分からないんです。」 少女は、一生懸命説明しようとしている。 男「…で、さっきのは拾われた先の家のガキか?」 少女は無言で頷いた。 男が少し少女を観察すると、 あちこちに打撲などの傷があった。 手先も酷く荒れている。 男「……。」 少女「私、凄く寒がりで…服が薄いのもあると思うんですけど…少しでも寒いと、体が全然言う事を聞いてくれなくて…それで…。」 男「……。」 少女「最近はどんどん寒くなってきてて、だから…いつもそんな調子で…。怠けだ、変だって言われてて…。やっぱり、変ですよね。…ごめんなさい、変な話して…。私、こういう風に、誰かとお話するのって、初めてで……」 男「……。」 男は立ち上がった。 少女「……。」 男「…今日は帰るとする。」 少女「あ、あの…この羽織りは…」 男「構わない。そんな格好じゃ、寒くて当然だ。」 そう言って、 男は歩き出した。 少女「…あの、……また…会えますか?」 男「……。」 それを聞いた男は立ち止まる。 そして、小さくふっと笑い、 少女の方へ向き直ると笠を取った。 少女「…!」 その男の右目は包帯で覆われていた。 少女「……。」 (怪我…してる?) 男「変な奴だな、お前…。」 少女「え…?」 男「俺は霧生だ。じゃあな。」 そう言って笠を被り直すと、 『霧生』と名乗った男は 去っていった。 少女「き、りゅう…。…霧生…殿…。」 初めて会話した『他人』。 あっという間の出来事に、 夢だったのではないかと思ってしまう。 ぼんやりと暫くその場に立ったままでいたが、 寒さが一層増してきた為、 ふらふらと歩き出した。
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