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二人はそのまま空き地で座り込んでいた。
暫く沈黙が続き、
話しかけたのは少女だった。
少女「あの…あなたのお名前は…?」
男「…人に名前聞く時は、まず自分が名乗るのが礼儀ってもんじゃねェか?」
少女「…ごめんなさい。…私…名前が…無いんです。」
男「…無い?」
少女「あの…私、捨て子…らしいんですけど…覚えてるのは、つい最近から…なんです。
ある日突然、目が覚めたら…今いる家だったんです。分からないことだらけで、でも、周りの人の話からしたら、そうなんだろうって思って…。
それより前に…自分が何で、いつ、どこでどうやって拾われたとか…何も、分からないんです。」
少女は、一生懸命説明しようとしている。
男「…で、さっきのは拾われた先の家のガキか?」
少女は無言で頷いた。
男が少し少女を観察すると、
あちこちに打撲などの傷があった。
手先も酷く荒れている。
男「……。」
少女「私、凄く寒がりで…服が薄いのもあると思うんですけど…少しでも寒いと、体が全然言う事を聞いてくれなくて…それで…。」
男「……。」
少女「最近はどんどん寒くなってきてて、だから…いつもそんな調子で…。怠けだ、変だって言われてて…。やっぱり、変ですよね。…ごめんなさい、変な話して…。私、こういう風に、誰かとお話するのって、初めてで……」
男「……。」
男は立ち上がった。
少女「……。」
男「…今日は帰るとする。」
少女「あ、あの…この羽織りは…」
男「構わない。そんな格好じゃ、寒くて当然だ。」
そう言って、
男は歩き出した。
少女「…あの、……また…会えますか?」
男「……。」
それを聞いた男は立ち止まる。
そして、小さくふっと笑い、
少女の方へ向き直ると笠を取った。
少女「…!」
その男の右目は包帯で覆われていた。
少女「……。」
(怪我…してる?)
男「変な奴だな、お前…。」
少女「え…?」
男「俺は霧生だ。じゃあな。」
そう言って笠を被り直すと、
『霧生』と名乗った男は
去っていった。
少女「き、りゅう…。…霧生…殿…。」
初めて会話した『他人』。
あっという間の出来事に、
夢だったのではないかと思ってしまう。
ぼんやりと暫くその場に立ったままでいたが、
寒さが一層増してきた為、
ふらふらと歩き出した。
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