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「……今日が誕生日か?」
王子は答えない。娘は納得がいかないながらも、どうにも申し訳ない気分になった。身分もわからない童顔な怪しい男にとって、今日は特別な日だったのだろう。国の王子と同じ誕生日だし、盛大に祝われたのかもしれない。
いい気分を害してしまったか。
「おめでとう」
娘は半分躍起になって言う。王子が少し娘を見た。
「誕生日、おめでとう」
王子はにっこりと笑い、
「ああ」
素直に答えた。その表情は、娘の警戒をいとも簡単に解いた。
「そのパン、チョコクロワッサン。店のパンは全部自分が焼いた」
王子のすぐ目の前にあるパンをあごで指す。
「誕生日なら、お金はいらない。好きなだけ食べな。どうせ売れないから」
「売れない? なぜ」
王子は口にチョコクロワッサンを詰めながら聞く。
「下手だから。見た目がまずい」
「食べれば一緒だろう」
もぐもぐ、王子はメロンパンと同様に「美味」と一言口にした。
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