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「……悪い奴じゃないのかもな」
娘はポツリと漏らした。お腹がすいていて、手を伸ばしてしまったのかもしれない。貧乏なのかもな。
「ここにある変わったパンは、すべて君が作ったのか?」
「ああ。親方は旅行しているから」
娘は王子から離れて椅子に座っていた。椅子は二脚あり、丸机も置かれている。どうやら親切にも、座ってパンを食べられるようになっていた。
「自分はまだ修行中だからいびつだが、親方である両親の作るパンはそれはそれは綺麗だ」
ふーん。あまり興味のない様子で、変わらずパンを口にしていた。窓の外の従者は騒がしい人ごみをなかなか抜けられないらしい。こちらに来ようとしているらしいが、あまり近づけてない気がする。
「自分のパンを食べたのはお前が初めてだ」
娘は王子に、初めて笑顔を見せた。挑戦的な鋭い瞳は、笑うと愛らしさを醸し出す。にっと見えた八重歯も愛らしい。意外と可愛い娘だ。王子はうむと頷く。
「お前は変な奴だが、嫌いじゃない」
娘はバンダナを頭から外す。一つに結ったオレンジ色の髪が現れた。街を囲む光よりはっきりしたオレンジ色。
「腹減っている時は、いつでも来い」
「……気が向いたらな」
王子は聞き流すかのように言った。
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