215人が本棚に入れています
本棚に追加
従者がやっとパン屋にたどり着いた。連れ出されるように店をあとにする。
「長居は禁物です、王子とバレたら大騒ぎなんですから」
「これ以上の騒ぎが起こるのか?」
王子は耳をふさぎ、しかし目はキョロキョロとまわりを見る。
「みんなは僕の誕生日を祝うのに、僕の顔を知らないのか?」
「存じてますよ。しかし、身近にいるとは思っていないのです」
「そんなものか」
「はい」
少しふてくされた王子は、口の端についていたらしいチョコレートを拭った。
「面白いものだな」
王子のつぶやきは、どうとも捉えることができず、従者は苦笑する。
「そろそろ戻りましょうか」
ゆっくりと馬車のある方向へ、歩みをかえた。
最初のコメントを投稿しよう!