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いつの間にか帰ったのだろうか。娘は少々むかつきながら、しかしそういう男だったと苦笑した。店を閉めるか、レジからドアへ移動する。
「にゃあ」
ドアの鍵を閉めようとすると、何かが背中に飛びついた。
「きゃあっ」
思わず悲鳴をあげる。普段は荒い言葉遣いの娘は、自分のあげた女の子のような声に嫌悪感をあらわす。しかし何かが背中にべたりと張り付いているのは事実。ドッドッド……鼓動がはやまる。は虫類じゃなければ有り難い。娘はガラス張りのドアに背中を向け、映る姿を見た。
――黒い物体。
「にゃあ」
何かは、すとんと背中から降り立つ。
「にゃあ」
鳴き声をあげ、娘の足もとに。
「……ねこ?」
それは闇に紛れてしまうほど黒い、猫だった。
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