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「にゃ、にゃにゃ?」
鏡の中の猫は、目をまん丸にして僕を見る。ひょいひょいと長い白髭が揺れる。真っ黒の瞳は間違いなく僕を映している……僕はねこ?
呆然と鏡を見つめる王子。従者は慰めないと、と口を開く。
「お、王子、可愛い、可愛いですからあまりお気になさらず……」
「シャーッ」
どうやら従者も動揺していたらしい。的外れな慰めは王子をさらに憤らせた。一番言われたくない言葉、可愛い。この幼い顔に低い身長でさんざん言われた、聞き飽きた。毛が逆立つ。
「ああ、すみません」
王子がその言葉を一番嫌っていることを思い出したのか、早口に謝る。
「しかし、なぜ猫に」
魔法が発動するには、きっかけが必要だ。ふざけた王様は、国一番の魔法の才能を持っている。この魔法が一筋縄でないことは確実だ。
「……まあ、好きな方とキスをすれば戻るらしいですし……」
従者は耳をそばだてる。
「で、好きな方とは?」
従者の耳には返事の代わりに引っかき傷がおみまいされた。
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