王様のたくらみ

5/5
前へ
/58ページ
次へ
「にゃ、にゃにゃ?」  鏡の中の猫は、目をまん丸にして僕を見る。ひょいひょいと長い白髭が揺れる。真っ黒の瞳は間違いなく僕を映している……僕はねこ?  呆然と鏡を見つめる王子。従者は慰めないと、と口を開く。 「お、王子、可愛い、可愛いですからあまりお気になさらず……」 「シャーッ」  どうやら従者も動揺していたらしい。的外れな慰めは王子をさらに憤らせた。一番言われたくない言葉、可愛い。この幼い顔に低い身長でさんざん言われた、聞き飽きた。毛が逆立つ。 「ああ、すみません」  王子がその言葉を一番嫌っていることを思い出したのか、早口に謝る。 「しかし、なぜ猫に」  魔法が発動するには、きっかけが必要だ。ふざけた王様は、国一番の魔法の才能を持っている。この魔法が一筋縄でないことは確実だ。 「……まあ、好きな方とキスをすれば戻るらしいですし……」  従者は耳をそばだてる。 「で、好きな方とは?」  従者の耳には返事の代わりに引っかき傷がおみまいされた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加