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「これが街かあ」
「いえ、まだです」
馬車に乗り込み、少しずつ変わる景色を上機嫌で眺める。世間知らずな王子は、城を出るのに早くても馬車を三十分は走らせなければいけないことを知らない。城はそれほどまでに広大だった。
「街は草が茂っているのか?」
「茂ってますが、ここに比べれば少しですよ」
「へえ」
変わらぬ景色が続く。それでも飽きないのか、ニコニコと笑う王子。従者もつられて笑う。
「お、門があるぞ」
「ああ、やっと街ですね」
大きな白い門を抜ければ、王族の土地から町民の土地にかわる。従者の言葉を聞いた王子は、そうか、と外を見続ける。
「城から見ていた景色に、僕はいるのだな」
景色がのどかな草原から、騒がしい街になる。夜とは言え、今日は誕生祭。お祭り騒ぎは徹夜ものであろう。
「つきましたよ」
城を出て約一時間、喧騒を離れた場所に馬車を停めた。
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