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「……よくわからないが、楽しそうだからよしとする」
王子は音から逃げるように端を歩く。馬車がやっとすれ違えるくらいの狭い道。町人からすればそれは広い道だったが、王子からすれば狭かった。人がごった返していたことも原因かもしれないが。
「なんだかいい匂いがする」
空が暗くなったころに誕生祭を終えてから、飲まず食わずで来たせいで王子は腹がすいていた。漂う香りは腹の虫を刺激する。
王子は匂いを追いふらふらと、とある一軒の店に入った。カランコロン、ベルが鳴る。
「いらっしゃい」
夜だからか、少し迷惑そうな表情をした娘が無愛想に礼をする。
「かまわぬ」
王子は城の中での対応のように、気を遣わないでいいとの意味合いからそうつぶやく。娘はおかしな客がきた、とさらに顔をしかめた。
「これは何だ」
一般から見たら高圧的ともとれる態度で尋ねる。
「……メロンパン」
「メロンとな」
王子は一つ手にすると目を見開いた。
「書物でしか見たことない異国のフルーツが……こんなところで」
感極まっているのか、娘の当惑をよそに一口食べる。甘い。うまい。
「書物のように果汁は滴らないが、なかなか美味であるな」
「頭大丈夫?」
娘は侮蔑的な視線を王子に送っていた。
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