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そんなことをふつふつと考えながら靴を脱ぐ。
そこでふと気がついた。
玄関に見慣れた靴が置いてあった。
「はっ」として顔をあげる。
一目散に廊下を渡り
あるドアの前で立ち止まる。
リビングに電気がついていないってことは多分…
なるべく音が鳴らないように
静かにそっとドアを開いて覗いてみる。
ベッド上のふとんが一部分膨らんでいて
中に人がいるのが分かる。
肩が小刻みに揺れているのを見ると
どうやら声を押し殺して泣いているようだ。
ああ、なんて馬鹿なんだろう…
そして、なんて愛しいんだろう…
オレは切ないような、悲しいような、愛しいような複雑な気持ちに顔を歪めた。
本当は、今すぐにでもかけよって抱きしめたい。
でも、長年の経験からここは慎重にいかなければならないってことは分かってる。
焦る心を落ち着かせ、ゆっくりベッドまで歩み寄る。
そして
そっと中に入ってみた。
一瞬びくっと体を揺らしたが、すぐにまた小刻みな肩の揺れが始まる。
その背中がすごく脆くはかなく見えた。
→つづく
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